離婚話を切り出す数週間前から佳美は辰夫との肉体的接触を避けていた。
正確には美登里に辰夫と寝てくれるよう、頼んだ日からだ。
抱きしめようとする辰夫の手をさりげなくすり抜け、いつも触れないようにしていた。辰夫も美登里とのことがあった日からは、もう夜を求めてくることもなくなっていた。
それなのに今、辰夫は酔っ払って風呂も入らずにいた佳美を抱きしめている。
「ちょ・・・ちょっと、辰夫くん・・・」
少し動いて腕を振り解こうとしたが、しっかりと抱きしめられていて、佳美は腕の中から逃れることはできなかった。
「・・・怖かったんだよ・・・」
耳元で辰夫が呟いた。
え?
意外な言葉に佳美は驚いた。
「・・・昨日、あのまま、佳美が死ぬんじゃないかって・・・意識はないし、いっぱい吐いていたし・・・目を覚まさなかったらどうしようって・・・・」
「そんな・・・大げさな・・・」
「大げさじゃない!」
肩を掴まれ、ぐっと引き離された。辰夫の顔が正面に見える。
「本当に心配したんだからな!」
辰夫の目は充血していて、少し潤んでいた。瞼も腫れぼったい。
泣いていたの・・・?
「・・・でも、なんともなくて、良かった・・・今日はゆっくり休んだらいい・・・真美子ちゃん、ごはん作ってくれてるからシャワー浴びたら食べろよ」
肩から手を離すと、辰夫は出て行った。
浴室で佳美はまた泣いた。
ヌル付いた身体と髪を洗い、宮田の体液が残っているところも丁寧に洗った。身体の表面の痕跡は洗い流せても、過去は消せない。宮田とのこと、辰夫を罠に嵌めたこと、美登里を利用したこと。全てのことを後悔して、シャワーに打たれた。
浴室からでると、メールが届いていた。見ると宮田からだった。
『佳美、二日酔いなんだって?今日はそんなに急ぎの仕事もないし、ゆっくり休みなさい。女房は切迫流産でしばらく入院することになったよ。だから近いうちに昨日の続きをしよう。中途半端だったから。また連絡するよ』
決定的だった。この人は私とのことを何も、本当に何も考えていない。別れたら結婚すると言っていたのも、奥さんとはレスだったというのも。
私のことを愛していると、言ったことも。
泣きつかれてもう涙は出なかった。
キッチンに行くと、テーブルの上に白い書類とお盆に載せられた一人用の土鍋があった。
鍋を覗くと真美子が作ったのだろう、白粥だった。横に梅干が添えられている。
白い書類は辰夫のサインと印鑑が押してあった。
佳美はペンと印鑑を持ってきて、テーブルでサインをし、捺印をした。そしてその書類を端に置き、真美子の粥を口に運んだ。まだ暖かく、少ししょっぱい、と思った。
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抱きしめようとする辰夫の手をさりげなくすり抜け、いつも触れないようにしていた。辰夫も美登里とのことがあった日からは、もう夜を求めてくることもなくなっていた。
それなのに今、辰夫は酔っ払って風呂も入らずにいた佳美を抱きしめている。
「ちょ・・・ちょっと、辰夫くん・・・」
少し動いて腕を振り解こうとしたが、しっかりと抱きしめられていて、佳美は腕の中から逃れることはできなかった。
「・・・怖かったんだよ・・・」
耳元で辰夫が呟いた。
え?
意外な言葉に佳美は驚いた。
「・・・昨日、あのまま、佳美が死ぬんじゃないかって・・・意識はないし、いっぱい吐いていたし・・・目を覚まさなかったらどうしようって・・・・」
「そんな・・・大げさな・・・」
「大げさじゃない!」
肩を掴まれ、ぐっと引き離された。辰夫の顔が正面に見える。
「本当に心配したんだからな!」
辰夫の目は充血していて、少し潤んでいた。瞼も腫れぼったい。
泣いていたの・・・?
「・・・でも、なんともなくて、良かった・・・今日はゆっくり休んだらいい・・・真美子ちゃん、ごはん作ってくれてるからシャワー浴びたら食べろよ」
肩から手を離すと、辰夫は出て行った。
浴室で佳美はまた泣いた。
ヌル付いた身体と髪を洗い、宮田の体液が残っているところも丁寧に洗った。身体の表面の痕跡は洗い流せても、過去は消せない。宮田とのこと、辰夫を罠に嵌めたこと、美登里を利用したこと。全てのことを後悔して、シャワーに打たれた。
浴室からでると、メールが届いていた。見ると宮田からだった。
『佳美、二日酔いなんだって?今日はそんなに急ぎの仕事もないし、ゆっくり休みなさい。女房は切迫流産でしばらく入院することになったよ。だから近いうちに昨日の続きをしよう。中途半端だったから。また連絡するよ』
決定的だった。この人は私とのことを何も、本当に何も考えていない。別れたら結婚すると言っていたのも、奥さんとはレスだったというのも。
私のことを愛していると、言ったことも。
泣きつかれてもう涙は出なかった。
キッチンに行くと、テーブルの上に白い書類とお盆に載せられた一人用の土鍋があった。
鍋を覗くと真美子が作ったのだろう、白粥だった。横に梅干が添えられている。
白い書類は辰夫のサインと印鑑が押してあった。
佳美はペンと印鑑を持ってきて、テーブルでサインをし、捺印をした。そしてその書類を端に置き、真美子の粥を口に運んだ。まだ暖かく、少ししょっぱい、と思った。
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